文化・歴史

シティvsチェルシー代理戦争勃発!! オアシスvsブラー

ブラー『ソング2』(1997)

90年代の英国一大音楽ムーブメント“ブリットポップ”の牽引者、blur(ブラー)。彼らが作った『Song2』は、今や世界中のスタジアムアンセムとして有名だ。しかし音楽ファンには、こうも知られている。“ブリットポップに終わりを告げた”曲、だと。

ブラーとオアシスの対決を煽る英国音楽誌NMEの表紙。BBCが朝のニュースで報じるなどの異常事態だった。

ブラーのことを思い出す時に避けては通れない話題は、やはりオアシスとの全英1位をかけたシングル売上対決だろう。元々は両者は険悪な関係になかった。しかし、“悪名高い”英国メディアが飛ぶ鳥を落とす勢いの2組を、面白おかしく煽り立てたのだ。結果、両者ともに、残念ながらまんまと乗ってしまった。悪意あるインタビュアーの誘導のまま、お互い「イケ好かないロンドン野郎め」、「北部の田舎モンが」などと悪口の応酬を繰り返し、その一言一言が音楽雑誌のみならずタブロイド紙の1面で大きく取り上げられた。対立は日に日に激化していき、挙げ句の果てに1995年8月14日、“ブラー側がわざわざシングルの発売日をずらして”前述の対決となったわけだ。

大衆はそんな両者の対決を大いに楽しんだ。それは単なる英国純正ポップと不変の正統派ロックといった、人々の音楽的嗜好の対決だけではもはやなかった。両バンドの出自などにかこつけた、イデオロギーの代理戦争だったのだ。盛り上がる首都vs衰退していく地方工業都市。中流階級vs労働者階級。そしてチェルシーvsマンチェスター・シティ。特に贔屓のクラブのシャツを着た彼らの姿は、まるで広告塔の様であり、人々の思いを投影した対象でもあった。

チェルシーのシャツを着るブラーのデーモン・アルバーン。バンド初期はこの格好でのインタビューが多かった。

当時のプレミアリーグには、ボスマン判決により数多くの外国人選手がやって来る、そんな時期だった。その恩恵を大きく受けたクラブの一つがチェルシーだった。プレイング・マネージャーのフリットの下、ゾラやディ・マッテオ、ヴィアリといったイタリア人選手を多額の資金で補強、国内のカップ戦や国際大会でみるみる結果を残していった。一方のマンチェスター・シティは80年代から続く暗黒時代の真っ只中。99-00シーズンに昇格を果たすまでは長い間2部や3部で低迷しており、シティファンからすれば「せめて音楽の世界では…」という気持ちもあったのだろう。

1997年、FA杯優勝のチェルシー。翌シーズンはリーグ杯とUEFAカップウィナーズ杯などを制した。

ブラーはオアシスとのシングル売上対決に勝利するものの、続いてリリースしたアルバムの売上では惨敗。戦いにもメディア対応にも、バンドの英国人大好き激甘ポップにも疲れきった彼らは、大きく方向性を変える決断をする。そうして生まれたのが『ソング2』だ。幾重にも重ねられたメロディも、皮肉たっぷりな歌詞もない。単純明快なパンキッシュなサウンドに意味不明な歌詞、そして誰もが叫びたくなる「Woo Hoo!」というインパクト大のフック。あまりにも突然な変化に対し拒絶するファンも大勢いた。しかし当の本人たちは戸惑う人々と、シーンの新たな主役に立ったオアシスを残し、さっさと戦いの舞台から降りて次のステージへ進んでしまうのだった。

※なお余談ではあるが、ブラーの中でチェルシーファンなのはボーカルのデーモンだけである。ギターのグレアムはダービー・カウンティ、ベースのアレックスはフルアム、ドラムのデイヴはコルチェスターユナイテッドを愛している。

【こちらも要チェック】blur / blur(1997)

『ソング2』収録の、初めてバンドの名前を冠した5枚目の作品。「ブリットポップは死んだ」という言葉とともにリリースされたアルバムのジャケットには、ストレッチャーに乗せられ運ばれる写真が使われている。アメリカのインディーロックを意識した、バンドの転換点と言える1枚。

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KATSUDONLADS FOOTBALL編集長
音楽好きでサッカー好き。国内はJ1から地域リーグ、海外はセリエAにブンデスリーガと、プロアマ問わず熱狂があれば、あらゆる試合が楽しめるお気楽人間。ピッチ上のプレーはもちろん、ゴール裏の様子もかなり気になるオタク気質。好きな選手はネドヴェド。
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