香川真司がPAOKテッサロニキに移籍したとはいえ、まだまだ日本での認知度の低さは否めないギリシャ・スーパーリーグ。確かに欧州5大リーグと比べれば規模は小さめだが、ファンの熱狂度に関しては世界有数だ。とくにPAOKの宿敵、アリス・テッサロニキのファンが作り出す雰囲気を見れば、きっとあなたも言葉を失うに違いない。あの日のマルティン・パレルモのように。

かつて2011年に坂田大輔(元・横浜FM/FC東京/アビスパ福岡)が所属していたことで、かろうじて日本人に知られているアリス・テッサロニキ(※英語名はアリス・サロニカ)。ギリシャ国内ではアテナにあるトップ3(オリンピアコス、パナシナイコス、AEKアテネ)の後塵を拝しており、PAOKと並ぶ“第2グループ”的な存在だ。1部リーグでの優勝経験はあるものの1945-46年シーズンまで遡らねばならず、タイトル自体では1969-70年のカップ戦優勝以降は獲得していない。
だが、他のギリシャのクラブチーム同様、アリスにもかなり熱いファンがいることで有名だ。無数の発煙筒と花火でスタジアムを真っ赤に染め上げる。特に世界で最も激しい試合のひとつと言われるPAOKとのテッサロニキ・ダービーでは、活火山の火口のように燃えあがるスタンドを見ることができる。

応援を統率するのは、ウルトラス“SUPER 3”。ヨーロッパの中でもかなり熱狂的で忠誠心が高く、総合スポーツクラブであるアリスが運営するサッカー以外のスポーツ…バスケットボール、バレーボール、水球の試合でさえもクラブのためなら駆けつける。そんな彼らの応援の中で最も印象深いものといえば、間違いなく2009年8月5日の試合だろう。その日のホーム、ハリラウことクレアンティス・ヴィケリディス・スタジアムは、シーズン前にもかかわらず大観衆で溢れかえっていた。それもそのはず、ボカ・ジュニアーズがプレシーズンのヨーロッパツアーの一環としてテッサロニキにやって来たからだ。ボカにしてみれば、ツアーの目玉となるACミランやマンチェスター・ユナイテッドとの対戦は終えており、ギリシャでの試合は遠征の締めくくり。そのため当時のボカの監督であるバシーレは、この試合でリケルメやインスーア、パレルモといったチームの主力たちを軒並みベンチに置き、数多くの若手を先発に起用していた。
だが、迎える側は全く意味合いが違う。セリエAや南米の応援スタイルから多大な影響を受けてきた“SUPER 3”としては、ボカは友人であり尊敬するクラブ。ただの親善試合のひとつ、では済ませられない。そこで彼らは、「彼らの流儀で」大西洋を超えてやって来た客人を盛大にもてなすことにした。テッサロニキ・ダービーに勝るとも劣らない熱い歓迎。この日のスタジアム全体が燃え盛る様子を、彼らは“Ring of Fire”と呼んだ。


さらに8年後、2017年8月11日。財政難より3部降格のペナルティを受けクラブ再建途中だったアリスは、2年目となる2部リーグを戦おうとしていた。その新たなシーズンが始まる前に、再びボカとの親善試合の開催が決まる。ファンはさらに大規模な“Ring of Fire”を実施し、改めてボカとの深い友情の証を示したのだ。




今思えば、こうして生まれたファンとクラブとの一体感が、アリスをこのシーズンでの1部復帰へ導いたのかもしれない。いずれにせよ、世界中のフットボールファンに強い衝撃と多大な影響を与えた“Ring of Fire”。とくにスタジアム内外の環境が整備された現代において、アリスのファンたちが作り出したこの空間を超えることは、決して容易ではないだろう。
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[…] 過激!これが応援!?スタジアムが火の海に!! […]