興味がない人からは蔑まれたり、呆れられたり。マニアが必ず直面する不条理だ。でもあなたは決して1人じゃない。何か好きなものに打ち込んでいる全ての人に、ぜひご覧いただきたいのが、映画『俺たちブロンリー・ボーイズ -ヘタレなクラブの愛し方-』だ。
舞台は1960年末から1970年のイングランドはブロンリー。ロンドン中心部から電車で15分ほどの、いわば“ロンドンの端”にある街だ。この街のサッカーファンの多くは、大抵トッテナムやウェストハムといった1部リーグのクラブを追いかけるものだが、本作品の主人公・デイブは幸か不幸か、ノンプロリーグに所属する地元クラブ・ブロンリーFCを生活の中心に据えたおかげで、波乱万丈の少年時代を過ごすこととなる。

全試合観戦はもちろんのこと、新聞の切り抜きをスクラップブックにまとめ、選手のインタビューをソラで言えるほどの、コテコテのサッカーオタクである16歳のデイブ少年。彼の周囲には趣味が合う人間はおろか、むしろ空気を読まず自分の世界に没頭する彼は、学校ではいつも変人扱いの問題児。数少ない仲間は、怪しげなオヤジサポーターのみ。それでも彼がへっちゃらなのは、弱くても愛すべき地元クラブがあるから。「サッカー観戦大反対」という父親の目をかいくぐりながら、スタジアムへと向かう日々だ。だが、ある時ひょんなことからスター選手の移籍の噂と、クラブ破産の危機を知ってしまう。一方でチームはというと、連戦連敗でいまや降格寸前。生活の全てが失われてしまう大ピンチに、デイブは奇跡を起こすことができるのか。フットボールを通じて少しづつ大人になって行く。今作は、そんなデイブ少年の成長の物語だ。

“大英帝国最悪のチーム”とも称されたブロンリーFCと人生を共にすると決めた時点で、学校ではかなり浮いた存在になるはず。加えて、授業中にも関わらず突如立ち上がりクラスメイト全員に試合観戦を誘ったり、ナイトゲーム観たさに門限破りをしたり。問題行動を繰り返すデイブを、強いクラブ愛と表現することもできるかも知れないが、正直言うと…かなり“イタい”子。日本風で言えば、(16歳だが)“中二病”を患っている、と言うところか。いいムードになった女の子の前でイキってみせるクセに肝心なところは気づかなかったり、仲間にいいトコ見せようとして背伸びしようとする様子は、10代らしい“若気の至り”満載。映画を観ていると、まるで久しぶりに自分の卒業アルバムを引っ張り出して見返してみるような、そんな小っ恥ずかしさを感じてしまう。
結局その幼さの部分が、クラブや周辺の人々を巻き込む大騒動へと発展してしまうのだが、それでもデイブにイライラしないのは、彼の幼さゆえの誠実さと情熱のおかげなのだろう。どの大人よりもクラブを救うために奔走する熱意と行動力、父の厳しいしつけの真意に気がついた時に感謝できる素直さ。その姿に、観ている人間は思わず応援したくなってしまうのだ。


「サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にするスポーツだ」
かつて『日本サッカーの父』デッドマール・クラマーはこう言った。楽しかったこと、やっちゃいけないこと、失敗したこと、成功したこと、仲間を作ること、誰かを愛すること…。デイブ少年はスタジアムで、人生で大事なことを学びながら成長していった。大人が紳士になるかは難しそうだが、少年は間違いなく大人になっていく。そんな気がする。
フットボールファンにはもちろん、推しのために生活を捧げている愛すべき様々なジャンルのオタクの皆さん、最近情熱が足りてないとお考えの皆さんへ。ぜひこの青臭くて、でも清々しいこの映画を観てもらいたい。サッカーに人生を狂わされた?お気づきだろうか、そう呟くあなたの顔は笑顔であることを。

原題:THE BROMLEY BOYS
監督:スティーブ・ケリー
出演:ブレノック・オコナー、アラン・デイビス、マルティン・マカッチョン、ジェイミー・フォアマン、アダム・ディーコン 他

※【ヨコハマ・フットボール映画祭2021】にて日本初上映決定!
2021年10月10日(日) 12:30〜14:23 かなっくホール
2021年10月14日(木) 19:10〜 シネマ・ジャック&ベティ
チケットなど、映画祭の詳細はヨコハマ・フットボール映画祭2021公式サイト(https://yfff.org/)まで
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