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中国サッカー崩壊の危機?消えていくクラブに、サポーターの本音は

中国版Twitter、ウェイボーにこんな書き込みが。「我が中国代表のシャツの胸には、5つの星(※中国の国旗、五星紅旗のこと)がある。ブラジル代表と同じだ!」「ドイツ、イタリア、アルゼンチン…、世界的強豪国は中国に勝ったことが無い!」…どちらも2002年大会以来、W杯に届かない自国代表に対する皮肉だ。サッカーファンの習近平国家主席はかつて、将来のW杯制覇のために国家をあげて強化するという大号令を発した。だが肝心の代表はというと、アジアのライバル達に水をあけられ、支えるべき国内リーグは崩壊の危機に直面している。

先日、中国そしてアジアサッカーを牽引してきた広州恒大(現在の広州FC)の経営母体となる恒大グループの経営破綻の危機が報じられた。2021年初頭の時点でのグループの負債総額は、すでに8,700億元(約14兆8,000億円)超え。オーナー企業の経営不振は、20年にはクラブに悪影響を与えていたようで、シーズン終了時にタリスカとパウリーニョという主力ブラジル人選手を放出していた。経営破綻のニュース以降は、監督であるファビオ・カンナヴァーロとの契約も破棄。シーズンの残りをチームのベテランである鄭智をプレーイングマネージャーに据えて戦う予定だ。こうしたクラブオーナーである企業の業績を理由に、2018年からの3年間で大小20あまりのクラブが解散、または活動停止、サッカー協会からの脱退により、プロリーグの舞台から消えていった。

2020年の中国王者でさえ、消えてしまうのは一瞬だ。江蘇蘇寧(※2021年からは江蘇FC)のオーナーである蘇寧グループは、リーグ初優勝からわずか3ヶ月後に5億元(約80億円)の負債を理由にクラブの無期限活動停止を発表。その翌月にはリーグからの脱退を発表した。

2020年、広州恒大を破り、念願のリーグ制覇を成し遂げた江蘇蘇寧。エデル、ミランダ、テイシェイラなどを擁した布陣を誇ったチームは、この歓喜からわずか数ヶ月後に崩壊した。
2020年シーズンの中国超級リーグ、広州恒大と江蘇蘇寧との激戦。結果、約束された優勝ボーナスも支払われず、テイシェイラはクラブに「嘘つき」と吐き捨てトルコへ、エデルも「オーナーは詐欺師」と言い放ちブラジルへ旅立った。

AFP通信の取材を受けたのは、400人以上のサポーターグループのメンバーの1人であるリュウ。江蘇FCの活動停止が発表されてすぐ、仲間たちとともに江蘇のクラブ事務所の外で抗議活動を行なったという。だが、すぐ警察からグループの代表へ電話があり、「集会は許可されていない。もうそこに行かないように。」と警告されたと言う。中国最大の政治イベントと言える“全国人民代表大会”の真っ最中だったこともあり、余計な波風を立てるのを嫌った当局による素早い牽制だった。彼らのみならず、主要な江蘇FCのファンクラブのリーダーたちは、皆“トラブルを起こすな”と釘を刺されたという。共産党の支配が非常に強いこの国では、たとえサッカーの話題でさえも敏感に反応する。そのため、メディア取材に答える際にも匿名を希望するファンが多く、こうして彼のように実名で取材を受ける者は稀だ。愛するクラブ存続のための抗議すらできず、「非常に強い無力感」を感じたというリュウは、「愛するクラブが崩壊していく様を、いまは眺めるしかない。」

一方、25歳の江蘇サポーター・オスカル(仮名)は、以前からファンを無視した企業による買収に疑いを持っていた1人だ。「蘇寧への疑いが証明された。」と語る彼は、クラブが2015年に蘇寧グループに買収された時に「クラブの魂が奪われた。」と感じたという。ファーストチームを応援することをやめ、ユースチームを観始めるようになったオスカル。事実上のクラブ解散に、「ようやくみんな、蘇寧グループの全てを知るところとなった。だからみんなも応援をやめたんだ。一部のファン、たぶん僕にとっても、チームは心の支えだった。でも、それも突然消えてしまったんだ。」とつぶやく。

上海申花vs北京国安の試合に現れた、元・江蘇蘇寧のサポーターたち。チーム活動停止により上海と国安、それぞれに移籍した元・江蘇の選手を応援するバナーを掲げている。メッセージの最後には「江蘇を忘れないで」の文字が。

オーナーの天津泰達グループが2021年、クラブ名を改名した途端にチームを放棄する事態となったのは、“天津タイガース”(天津津門虎)。クラブを支えるウルトラスのメンバーの1人で、10年以上天津のチームを観続けてきたというフー(仮名)は、かつてのクラブのことを懐かしく思い出す。「チャントを歌えば、選手に届いた。試合前に選手と話すこともできた。私のクラブは地に足がついていると思ったし、本当にファンを気遣うチームをサポートしていると感じていたんだ。」スタジアムでの応援はもちろんのこと、サポータークラブを通してチャリティーにも率先して協力したり、南米のフットボールカルチャーを学ぶためにスペイン語を学んだこともあるという、熱狂的サッカーファンのフー。リザーブチームの試合を観るために、天津から新疆ウイグル自治区にある試合会場まで、1週間かけて電車で遠征したこともあった。そんな彼は肥大化していった最愛“だった”クラブを批判する。「サッカーはコミュニティの一部であるべきなんだ。」

現在は天津市のスポーツ局がクラブ運営を引き継ぎ、ギリギリで2021年シーズンの超級リーグに参加することが可能となった天津。だがフーに笑顔はない。「クラブは国営となった。クラブを運営し続けるために、もはやファンは必要じゃない。もう彼らは、我々のことなんて気にしてはいないんだよ。」スポンサーが変わるたびに、コロコロと変わるクラブ名にも不満がある。「ファンの声を完全に無視しているんだ。それは試合やチームに、人生を捧げている我々のようなファンにとって、非常に恥ずべきことだ。我々はチームだけでなく、コミュニティの価値観にも誠実であるべき、と考えている。サッカーは人々のための物であるべきなんだ。」フーのように、大企業がクラブの歴史を軽く見ていると考えるファンは少なくない。

北京国安ウルトラス『御林軍』メンバーが資金を出し合い、バスの側面にラッピングした意見広告。「我々の名前は北京国安」のメッセージは、2021年に中国サッカー協会が規定したクラブ名についての新ルールへの抗議。
北京のウルトラス『御林軍』を追ったCOPA90によるドキュメンタリー。“近衛軍”を意味する彼らは、中国国内屈指のサポーターグループだ。

一方で、クラブ側にはクラブ側で、ファンの方を見ようとしない理由がある。

中国内でのサッカー人気は非常に高く、世界のサッカー中継の視聴者数は軽く1億人を超える。W杯を観戦するために、10万人もの中国人がロシアへ渡航しており、その消費額は世界2位(4億3,700万元=約76億1千万円)とも言われている熱狂ぶりだ。にも関わらず、例えばユニフォームの売り上げは芳しくない。好景気が続いたとはいえ、一般庶民の所得は未だ低いまま。毎年リニューアルされるユニフォームの購入は簡単ではない。さらに広く模造品が出回る中国の現状が拍車をかける。某スポーツメーカーの公式サイトでは429元(約7,500円)で売られる本物と、そっくりのシャツが50元(約900円)にも満たない価格で販売されているのだ。コピー商品が簡単に手に入る、この手軽さがクラブの収入を阻害しているのだ。

またTV放映権料も期待できない。1989年に国営放送・CCTV(中国中央電視台)がセリエA中継を開始して以来、中国では国内リーグはもちろん、ヨーロッパサッカーを特別な料金をかけず観ることが当たり前になっている。さらに現在、ネット上の違法アップロードの横行により、サッカーファンは以前よりも安価もしくは無料で、さらに多くの試合を楽しむことができるのだ。2007年に天盛グループが発表したデータによると、調査した当時に中国でのプレミアリーグファンが3,000万人いると言われていたが、実際に正規の値段を支払っているのは、その中の1/10にすぎないとされている。

江蘇蘇寧の活動停止発表後、商業地域の巨大ヴィジョンに表示された「江蘇なしでは生きていけない」のメッセージ。江蘇サポーター有志が費用を出し合って掲載したものだが、地元メディアは「以前からファンが“本物の”ユニフォームを買っていたならば、この広告費用よりも効果があっただろうに」と冷ややか。
数多くの海外クラブのファンクラブが生まれている中国。この巨大市場に、特にヨーロッパのビッグクラブは引き続き注視している。

ニュースメディア『The World of Chinese』は、中国のサッカービジネスに詳しいノッティンガム大学の博士研究員、トビアス・ロスの指摘を掲載した。それによると、「(中国サッカークラブで)典型的なのは、クラブオーナーである不動産会社が、核となる事業が有利な待遇を得るためにサッカーに投資している」パターンであるという。彼らの多くは本業の不動産以外の事業を拡大させているため、企業イメージがハッキリしないという欠点をサッカークラブで補おうというのだ。事実、この戦略の先駆け、前述の恒大グループの会長・許家印は、「サッカークラブを持つことは、通常の何分の1かの費用で、確実に企業名が夕方のニュースで登場する。」と語っているほど。また企業の知名度の上昇で、地元の役人との関係をより強固な物にし、事業を運営しやすくなるという狙いもある。サッカー事業から収益を得ようとは考えていない時点で、クラブにとってはファンの方を見ずとも構わない、という現状が浮かび上がってくるのだ。

現在2部の甲級リーグに所属する、江蘇省のクラブ・南通支雲。創立わずか6年ながら、サポータークラブの会員数は2万人を超える。南通市サッカー協会が運営しており、地域密着・サポーター重視を掲げ、近年の中国サッカーを代表する金満経営からの脱却を唱える。果たして中国サッカーの新たなスタンダードになるのか。

オーナー達がたやすくクラブを手放してしまうのは、中国サッカー協会が2021年シーズンから採用したルールも大きく影響している。膨大すぎる資金が動く中国リーグの流れを抑制する目的で始められたこの規定、チーム名やエンブレムから企業スポンサー名排除をクラブに義務付けた。だが、クラブ運営を企業の広告宣伝を主としている経営陣側からしてみれば、サッカーチームを持つ旨味はなくなる。加えて、長引く新型コロナウイルスによる減収だ。負債を抱えたチームを引き取る者はなかなか現れないだろう。中国サイト『腾讯网』は、「いまネット上では、広州FCがクラブ存続のために、同じ街のライバル・広州シティ(以前の広州富力)との合併計画が話題」と報じた。この禁断の計画が実現するかは疑問だが、大手の中国メディアの中には「今後はクラブ間の“合併ブーム”が起こる」と予想しているところも。中国リーグの崩壊の危機を食い止めることができるか注目だが、いずれにせよ簡単な道のりではなさそうだ。

国内リーグの混乱が影を落とす中国代表チーム。エウケソンなど、帰化した主力選手の所属はいずれも広州FC。もし彼らが給料未払いなどで広州から離れることがあれば、代表招集は困難になるだろう。

投稿者プロフィール

KATSUDON
KATSUDONLADS FOOTBALL編集長
音楽好きでサッカー好き。国内はJ1から地域リーグ、海外はセリエAにブンデスリーガと、プロアマ問わず熱狂があれば、あらゆる試合が楽しめるお気楽人間。ピッチ上のプレーはもちろん、ゴール裏の様子もかなり気になるオタク気質。好きな選手はネドヴェド。
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