クラブにとって、多額の運営資金を運んできてくれるユニフォームの胸スポンサーはありがたい存在。だが長引くコロナウイルスの流行などにより世界経済が停滞している現在、一部のリーグやクラブ以外は資金繰りに苦しんでおり、組織が脆弱なクラブはいずれも破産の危機を迎えている。だが、捨てる神あれば拾う神あり。今回は一風変わった胸スポンサーたちを紹介する。あなたなら、あなたが愛するクラブにどんなサポートが欲しいだろうか?
スポーツ団体が、別ジャンルのスポーツ団体をサポートする。ありそうでなさそうな話だが、英7部のエンフィールド・タウンFCに限っては実現した話となった。アメリカ最大のプロレス団体『WWE』が先日発表したのは、運営するブランド『NXT UK』と、ロンドン北部のアマチュアクラブとの1年間のスポンサー契約締結というニュース。WWEとは全米の視聴者数は毎週1,100万人以上、全世界180カ国で試合が放映されているという、もはやプロレスというジャンルを超えた世界最大級のスポーツエンターテイメント企業だ。その中でNXTは、もともと新人発掘を目的にスタートした番組のひとつ。現在は独自のブランドとして試合を中継しているだけでなく、トップチームであるWWEへ有望選手を供給する下部組織の役割を果たしている。
NXT UKは、文字通りNXTのイギリス版。現在は女子チャンピオンとして里村明衣子選手が所属しており、日本からの注目度も高い。今回の契約は、WWEがイギリスでの拠点となるパフォーマンスセンターをエンフィールドに立ち上げたのが縁とされている。エンフィールド・タウンFCは元々あったエンフィールドFCのホーム移転に対し、「地元にサッカーチームを残すため」2001年にサポーターたちが作り上げた英国初の市民球団。WWEのマイケル・レビンは、「両者はファン重視という本質的な価値感、スポーツとエンターテインメントにおいて次世代の才能をサポートするというビジョン、そしてファンを笑顔にするという目標で一致している。」と語っており、創立20周年を迎えるクラブにとっては記念すべき年となったようだ。


続いてもイングランドから。英2部にあたるEFLチャンピオンシップ所属のウェストブロムウィッチ・アルビオン(※以下、WBA)は、胸に“禁煙マーク”を付けていたことがある。1984年からの2シーズン、胸スポンサーをつとめていたのはクラブの地元、ウェストミッドランズ郡の保健局だった。今でこそ愛煙家にとっては肩身がせまい世の中だが、当時はスタジアムのテラス席などで、ファンがタバコをふかしながら試合を観戦するという姿が日常的に見られていたという。(当時ならジャック・ウィルシャーも、そこまで目くじらを立てられることもなかっただろうが…)
そんな“悪しき習慣”に対しWBAは他に先駆け、1984年にスタジアム内を禁煙と定めた。翌年にタバコの不始末により、ブラッドフォード・シティのホームスタジアムであるヴァリー・パレードでの大火災(※56名が亡くなり、265人以上が負傷した)が発生。その後に国がスタジアムの防火対策に対し本腰を入れるようになったことを考えると、WBAの試みは先進的だったと言えるだろう。

エンリケ・セレソが、前任のヘスス・ヒルにかわりアトレティコ・マドリードの会長職についたのは2003年。その直後から2005年まで、クラブのメインスポンサーだったのが、アメリカのコロンビア・ピクチャーズだ。映画プロデューサーとしても知られ、マドリードの映画館チェーンのオーナーであり、スペイン映画の7割の権利を持つ“スペイン映画界の顔”であるセレソ会長。「フットボールはビジネス」と言い切る彼にとっては、あくまで本職は映画の方にあるということなのだろうか。映画プロデューサーの彼らしいとも言えるこの契約では、コロンビア配給の映画タイトルが次々とユニフォームの胸元を彩った。
『バイオハザード2』や『スパイダーマン2』、『トリプルX』など、日本でも知られるタイトルばかり。契約初年度となる2003-04シーズンの1年間にPRした映画は、実に16作品にものぼる。世界中を見回してみても、同一スポンサーでありながら、これだけコロコロ変わるのは非常にユニーク。その一方で、セレソ会長就任時のアトレティコは前会長が溜め込んだ巨額の負債に頭を悩ませており、こうした不思議なスタイルも当時のクラブの厳しい台所事情がうかがえる。

より財政が厳しいのは、ギリシャのアマチュアクラブ。2012年のギリシャ経済危機以降、誰もアマチュアスポーツなど構っていられないというのがリアルなところだろう。2012-13シーズン、ギリシャのパレオピルゴFCが契約を結んだ相手は、なんと葬儀屋。チームのGM兼選手のレフテリス・ヴァシリウは地元ラジオ局『NovaSport FM』のインタビューに対し、「チームには3年間スポンサーが付いておらず、経済危機のおかげで11-12シーズンはとても大変だったんだ。」と振り返る。「葬儀場のオーナーは私の友人で、それで契約にこぎつけたんだ。クラブが存続できるかどうか、という問題だったよ。」黒地に白い十字架という印象的なユニフォーム。なんとも不気味ないでたちだが、当の選手たちはというと思いのほか好反応だったようだ。「私が選手たちにシャツを見せたら好評でね。今じゃ、もっとシャツを作ってくれと言われてるよ!」と、ヴァシリウ。しかし、葬儀屋でクラブ延命、とはなんとも…。

一方で、ギリシャ中部・ラリッサにあるアマチュアクラブ、プケバロスに救いの手を差し伸べたのは高級売春宿だった。ギリシャ国内では厳格なルールの下、合法化されている売春産業。業績は経済危機においても一般企業より安定しているといわれており、3軒の風俗店を経営する女社長のソウラ・アレブリドゥソウラからの申し出に対し、クラブ側に断る理由など一切なかったのだ。実際、『台北時報』の取材に対し、チームの控えGKでありクラブの会長でもあるヤニス・バジオラスは「アマチュアサッカーに対して皆が背を向けている状況で、(この契約は)生きるか死ぬかの瀬戸際だった。申し出を断ることなどできなかった。」と当時を振り返っている。
だがパレオピルゴと異なったのは、彼らの新ユニフォームは使用許可がおりず、実際に使われることはなかったというところだ。リーグを統括する連合トップのマリオ・スピラトスは不許可の理由について、「売春を宣伝することはふさわしくないし、アマチュアの精神に反する。また、クラブには18歳未満の選手たちが何人かいる。彼らに悪影響を与えかねない。」とのこと。資金を提供しても宣伝効果がない、それでもクラブへの支援をやめないとヤニス社長は言う。「ギリシャは昔から文化人、そして優秀なアスリートを輩出してきました。私たちのお金をスイスに持っていくより、彼らを助ける方がいいと思うのです。才能はアマチュアスポーツから育つのですから。」


同じアマチュアでも新興のワシントン・スクエアFCにとっては、いささか目的が違うようだ。彼らは世界中の男性たちに“刺さる”スポンサーで、クラブPRに成功した史上初のクラブとなった。アマクラブと、アメリカ大手のポルノ動画サイト『REDTUBE』との契約は、英大衆紙『The Sun』の記事をきっかけに世界中に広がることとなった。『Boston Globe』紙のインタビューに答えたのは、契約前は諸経費は自腹だったという運営担当、そしてチームキャプテンのジョン。(※ファミリーネームは匿名を希望)「この国ではアマチュアサッカーはあまり注目されていないんだ。だから俺たちのチーム、リーグに注目を集めるためにクールな物をもたらしたかったんだ。」
ポルノ動画サイトとのスポンサー契約に関しては、実は選手の冗談から生まれた偶然。彼らは面白半分でポルノ会社あてに手紙を書き、チームのアカウントから手紙のスクリーンショットを添付してツイートした。彼らにとって「面白いけど、決して実現しないジョークの1つ」に過ぎなかったツイート、予想外だったのはREDTUBE側がすぐさま反応したことだった。だが、この契約締結による周囲からのネガティブな反応は想定していないのだろうか。「確かに眉をひそめる人間はいるだろうし、理解もできるよ。でも例えば、ギャンブルサイトを(スポンサーとして)使用する人間もいれば、それに眉をひそめる人間だっているだろう?」

REDTUBEのロゴが入ったユニフォームだけでなく、アパレルも品揃えを充実させているワシントン・スクエアFC。報道以降、これらのグッズは今やクラブの貴重な収入源となっている。「マレーシアやオーストラリア、ヨーロッパ中の至る所にシャツを出荷しているんだ。」とジョンは言う。「俺たちがやっていることは、人々が注意を払っていないもの…つまり、アマチュアサッカーに光を当てることなんだ。」そんな彼らの現在の目標とは?「(諸経費を)払う必要がなくなることだね。」


コロナの影響に加え、不透明な中国経済、新たな富豪の出現。様々な影響から、これまで我々が思いもよらない様なスポンサーが、今後トップリーグを彩るかもしれない。もちろんそれが変わったロゴでも、ユニフォームデザインとマッチしていなかったとしても、タイトル獲得など記憶に残るシーズンなら思い出のシャツになってしまうのだから、フットボールファンは本当にわがままなものである。もちろん筆者も含めて、なのだが。
投稿者プロフィール

- LADS FOOTBALL編集長
- 音楽好きでサッカー好き。国内はJ1から地域リーグ、海外はセリエAにブンデスリーガと、プロアマ問わず熱狂があれば、あらゆる試合が楽しめるお気楽人間。ピッチ上のプレーはもちろん、ゴール裏の様子もかなり気になるオタク気質。好きな選手はネドヴェド。
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