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定番チャントは信頼の証?セルティックファンが歌うラスト・クリスマス

弊サイトで何度かお伝えしている『フットボールと音楽の親和性の高さ』。特にスコットランド、中でもセルティックのソレは群を抜いていると言われている。今回は、中継などでよ〜く耳をすますと聞こえてくる、“あの名曲”を使ったチャントをご紹介したい。聞きなじみのあるあの曲こそ、セルティックファンのチームへの信頼のバロメーターなのだ。

横浜F・マリノスから引き抜かれる形でスコットランドへ渡った、セルティックのアンジ・ポステコグルー監督。日本や母国オーストラリアとは違い、欧州ではほぼ無名の指揮官だっただけに、“エディ・ハウ(現 ニューカッスル・ユナイテッド監督)の代案”に相応しい人物か、周囲の目は懐疑的だった。実際、2021-22シーズン開幕は1997年以来となる黒星スタートと最悪の船出に。英ガーディアン紙が「クラブは完全に道を見失っている」と酷評するほどだったが、10月に入ると成績は4勝1分けと大きく好転。監督自身も月間最優秀監督賞を受賞するなどチームの立て直しに成功すると、11月末の時点では首位レンジャーズと4ポイント差にまで迫る勢いとなっている。試合を重ねるごとにファンからの信頼が増してきたポステコグルー、そんな彼への賞賛が形になったのが2021年11月8日のダンディーとのアウェイ戦でのこと。試合に勝利した選手とスタッフがセルティックファンに挨拶をしようとした時、鳴り響いたのがこのチャントである。

Last Christmas, I gave you my heart

 (去年のクリスマス、僕の心を君に捧げたんだ)

But the very next day you gave it away

 (でもすぐ次の日に、君は捨て去ってしまったね)

This year, to save me from tears

 (今年は涙を流さないように)

I’ll give it to Postecoglou

 (ポステコグルーに捧げるんだ)

ザ・フープスの新指揮官は、どうやら自身の名前が非常に言いにくいと自覚していたらしい。試合後のインタビューでは「1番の課題は、どうやって『ポステコグルー』という名前を曲の中に取り込むかだと思ってましたが…、どうにかしましたね。彼らを讃えたいと思います。」と、ファンへの感謝をジョーク混じりに述べていた。

歌詞をご覧になってお気付きの方もいるだろう。(というより、歌い出しで既にタイトルを言っているのだが…)このチャントの元ネタはクリスマスソングのド定番、80年代アイドルポップデュオ『WHAM!(ワム!)』の名曲『ラスト・クリスマス』だ。1984年にリリースされたこのシングルはクリスマス時期に欠かせない、世界中いたるところで流れてくる大ヒット曲だ。あまりに毎年流れすぎてて良くわからないかもしれないが、ジョージ・マイケルの甘い歌声にポップなメロディ…とは裏腹に、実は歌詞の内容が「彼女(または彼)にフられちゃったけど未練タラタラ」というクリスマスのハッピー感とは正反対、精一杯の強がりを言っている歌なのである。

ダンディー戦後、左胸のエンブレムを叩いてチャントに応えるポステコグルー。周囲の疑念に対し、結果で納得させた。
ワム!が人気絶頂の最中にリリースした、彼らの代表曲『ラスト・クリスマス』。84年の発売以降、多くのカバー曲も生んだ言うまでもない名曲である。作詞作曲をひとりで担当したジョージ・マイケルは皮肉なことに2016年、まさにこの曲が街中で流れているクリスマスに53歳で亡くなっている。

この大失恋ソングが一転、セルティックの名物チャントになったのは2014-15シーズンのヨーロッパリーグ、グループリーグD組最終節のクロアチア・ザグレブ戦でのこと。なお、スタディオン・マクシミールに乗り込んだこの試合、ザグレブとの激しい撃ち合いの末に敗れているセルティック。まだこの時はファンも原曲通り「I’ll give it to someone special(特別な人にあげるつもりさ)」と歌っていることから、歌った理由が単に「クリスマス近くに開催された試合だから」というウルトラス『GREEN BRIGADE』らしいジョークなのか、「負けたけど、もうグループステージ2位通過を決めているし」という強がりなのかは、今もって定かではない。ただハッキリしているのは、当時の彼らは笑顔で歌っていた(※サイト『The Celtic Wiki』に言わせれば「もはや笑うしかない」状態だったから、とも)ということだ。

ザグレブに駆けつけたセルティックのウルトラス『GREEN BRIGADE』。2006年からセルティック・パークの北側ゴール裏(セクション111)に居を構える彼らのポリシーは左翼的と知られている。反ファシスト、反人種差別を表明しているだけでなくアイルランド統一やスコットランド独立も支持する、欧州の中でも政治的かつ創造的なウルトラスだ。ご覧の通り、氷点下でも裸という気合いの入れよう。
2014年12月、スタディオン・マクシミールでおこなわれたヨーロッパリーグのグループステージ最終節。敵地ながら大勢のファンが駆けつけたこの試合で、『ラスト・クリスマス』チャントは誕生した。

ザグレブでの誕生以降、名物チャントとなったラスト・クリスマス。前述のポステコグルーへのチャントの通り、最後の部分を選手、または監督の名前に変えて歌われるようになっている。ちなみにセルティックの監督で、このチャントに名前を入れて歌われたのは過去に2人…ロニー・デイラとブレンダン・ロジャーズだけである。

2014年から指揮をとったロニー・デイラ(現 ニューヨーク・シティ監督)は、わずか2年のクラブ在籍中にカップ戦を1度、リーグ2度制覇。偉大なノルウェー人は前任者が築いたリーグ3連覇中のチームという大役を、“クラブ過去100年で最高の守備”という形で見事に繋いだ。あとを継いだブレンダン・ロジャーズ(現 レスター・シティ監督)もまた、デイラの遺産を食いつぶすことなくクラブに輝かしいトロフィーをもたらしてきた。19年に退任するまでに2度の国内3冠を達成しており、その中にはリーグ無敗優勝という偉業も含まれている。両者とも最大のライバルであるグラスゴー・レンジャーズの低迷期(※2012-13シーズンから4年間は破産による降格のために、下部リーグでの戦いを強いられていた)と重なる部分が多かったとはいえ、クラブのリーグ9連覇を支えたレジェンドとして今後も多くのファンに長く記憶されることだろう。

ブレンダン・ロジャーズver.のラスト・クリスマス。一部ファンが思わずロニー・デイラの名前を歌ってしまっているが、それだけ両者はファンにとって大きな存在だった。

勝利した後に歌われるラスト・クリスマスは、原曲通り未練タラタラで強がっている、という意味ではない。これまではともかく、俺たちには今この監督・選手がいるじゃないか!というファンからの厚い信頼の証であり、名前が歌われるのは名誉なことでもある。そういう意味では現指揮官はシーズン折り返しを迎え、早くもファンから先輩2人に並ぶ評価を得た…というのは言い過ぎだろうか。

ともかく、古橋亨梧の活躍もあり、再び日本での注目度が上がってきたセルティック。残念ながらヨーロッパの戦いは早々と終えてしまったが、更なる日本人選手移籍の有無も含めて今後国内での躍進に期待しよう。

2021年セルティック公式のクリスマスPR動画。動画序盤の“新旧日本人選手の共演”はもちろんのこと、動画最後に登場するジョタの(勧誘当初から激似と話題だった)ジョージ・マイケルに扮している姿にもご注目。
クリスマスソングチャントその1。Shakin’ Stevensの『Merry Christmas Everyone』のメロディで歌う、エバートンとのマージーサイド・ダービーでのリヴァプールファン。
おなじみジングル・ベルのメロディで歌うスパーズファン。クリスマスシーズンに勝利すると歌われる、期間限定の定番チャント。
こちらはちょっと古めの『Winter Wonderland』のメロディで、当時ライバルのマンチェスター・シティの監督だったロベルト・マンチーニを挑発するユナイテッドファン。なおこの2012-13シーズンをもって、マンチーニは解任されている。

投稿者プロフィール

KATSUDON
KATSUDONLADS FOOTBALL編集長
音楽好きでサッカー好き。国内はJ1から地域リーグ、海外はセリエAにブンデスリーガと、プロアマ問わず熱狂があれば、あらゆる試合が楽しめるお気楽人間。ピッチ上のプレーはもちろん、ゴール裏の様子もかなり気になるオタク気質。好きな選手はネドヴェド。
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