文化

W杯より盛りあがる!?東南アジアNo.1を決めるAFF三菱電機カップ、注目5ヶ国!!

世界最大の祭典・ワールドカップが終わっても、フットボールは休まない。カタールでの宴の直後となる2022年12月20日から年をまたいだ1月16日まで、ASEANサッカー連盟(AFF)加盟11ヶ国が東南アジア最強を目指す熱く激しい戦い…東南アジアサッカー選手権『AFF三菱電機カップ2022(AFF MITSUBISHI ELECTRIC CUP 2022)』がおこなわれる。(※本戦は10ヶ国。)日本ではなかなかなじみがないかもしれないが、1ヶ国による集中開催ではなくASEAN9ヶ国で開催される同大会は、文字通り東南アジア全域を舞台にした同地域最大のトーナメント。規模でいえば欧州や南米にも引けを取らない。今回は、なぜいま注目すべきかという理由も含めて、みなさんにAFF三菱電機カップ2022をご紹介していきたい。

まずは大会自体についてお話していこう。元々AFF主催の東南アジアサッカー選手権『AFFチャンピオンシップ』は1996年、シンガポールのタイガービールをメインスポンサーに迎え『タイガーカップ』の名称で産声をあげた。2年に1度、偶数年におこなわれ、以降は大会名称を『AFFスズキカップ(AFF Suzuki Cup)』(※2008年〜2020年大会まで。)と変えながら、今回2022年大会で14回目を迎えている。また今大会は新たなメインスポンサーを迎え『AFF三菱電機カップ』として心機一転。スズキ、三菱電機と日本企業が連続で大会スポンサーを務めているところからも、この大会の注目度の高さ・重要度がうかがえよう。

第1回大会はASEAN連盟創設メンバー6ヶ国に招待国4チームを加える形でスタートしたが、2018年からはAFFランキング上位9ヶ国が本戦ストレートイン。残り1ヶ国は10、11位の国同士による予選によって決定される。本戦は5チームごと2つに分けられたグループステージがおこなわれたのち、上位2チームが決勝トーナメントへ。試合は4試合のうちホーム2試合、アウェイ2試合という、新型コロナ拡大前の2018年大会の方式が採用されており、ノックアウトラウンド以降は当該国のホーム&アウェイの2試合で勝敗が決定される。

Mitsubishi Electric Channel(@MitsubishiElectricChannel)によるAFF三菱電機カップ2022のPR動画。東南アジア全域で繰り広げられる大規模な国際大会にふさわしく、今大会からビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)を採用する予定だ。
前回2020年大会を制したのはタイ代表。大会MVPには川崎フロンターレ所属のチャナティップ・ソングラシンが選ばれた。なお中央の女性はチームマネージャーの“マダム・パン”ことヌアンパン・ラムサム氏で、タイリーグ1部ポートFCのオーナーであり抜群の知名度を誇る実業家でもある。

AFF Mitsubishi Electric Cup(https://www.youtube.com/@AFFMitsubishiElectricCup)では過去の試合など、大会に関する動画が多数アップされている。

そして本大会が最も興味深いところが、FIFAの定める国際Aマッチウィークの期間外での開催ということだ。これは拘束力のない代表戦に所属選手がわざわざ休暇を削って参加することを良しとしないクラブ側が、招集拒否をしても何ら問題がないことを意味している。

実際、前回大会チャンピオンであり、チャナティップ・ソングラシン(川崎フロンターレ所属)やスパチョーク・サラチャート(北海道コンサドーレ札幌所属)など数多くのタレントを擁しているタイ代表では、Jリーグ所属選手を中心に大会不参加またはクラブによる派遣拒否があいついで表明されている。またマレーシア代表では、AFCチャンピオンズリーグ2022での躍進が記憶に新しいジョホール・ダルル・タクジム(JDT)の選手14名が代表招集を辞退。11月の代表候補合宿の際には、キム・パンゴン代表監督の要請に対し合宿初日に集まったのは、メンバー30名のうち半数の17名のみだったという。

もちろんこうした例を見れば、大会のマイナス面ばかりが強調されるように思われるかもしれない。だが、これこそが三菱電機カップをさらに面白くする大きな要素。むしろ見所が増えたと喜ぶべきだろう。レギュラー選手を揃えられないかわりに、どんな新戦力が台頭してくるのか。また、戦力確保に苦労する強豪の間隙をぬって上位進出を狙うのはどこか。こうした強国の意地、アウトサイダーの躍進を見るのも今大会の楽しみのひとつと言えるのではないだろうか。

本田圭佑ゼネラルマネージャーが率いることで有名となったカンボジアは、2023年の『東南アジア競技大会(SEA Games)』(※2年ごとに開催される東南アジアの総合スポーツ競技大会。東南アジア版オリンピックとも言われ、非常に人気・注目度が高いことでも知られる。)の自国での開催を控えている。彼らは同大会のサッカー競技で金メダルを獲得することを目標に現在10ヶ年計画を進行中。これまで多くの日本人指導者もユース年代強化に協力してきた。組み合わせ抽選では下から2つ目のランクであるポット4に組み込まれており厳しい戦いが予想されるが、今大会を国の威信をかけた来年のSEA Gamesの試金石にしたいところ。目指すは初のグループリーグ突破だ。

カンボジアの首都プノンペン郊外に建てられたモロードク・テコー・ナショナルスタジアム。6万人収容の巨大競技場は一帯一路構想の一環として中国からカンボジア政府へ2021年に寄贈された。今回の三菱電機カップ2022の9つある会場のひとつであり、カンボジア代表が長年の目標としている2013年自国開催のSEA Gamesのメイン会場となることが決まっている。(※画像:ロイター)

そのカンボジアとグループリーグで対戦するフィリピンも、日本人的には興味深いチームだ。「アスカルス(雑種の野犬たち)」の愛称を持つ同国代表に世界中からハーフの選手を集めており、そうした国々の中にはもちろん日本も含まれる。メンバーには先日のベトナムとのトレーニングマッチで4年ぶりの代表復帰を果たした“ピカ”ことMF嶺岸光や、今年のアジアカップ予選でも代表の主力として活躍した元・浦和ユースのDF佐藤大介、そしてU17日本代表にリストアップされたこともあるDFタビナス・ジェファーソン(水戸ホーリーホック所属)と優れた能力を持つ選手が名を連ねている。他にもバルセロナ下部組織育ちの19歳MF、サンドロ・レイエス(フィリピン1部 カヤFC所属)という高い得点能力と広い視野が定評の有望株も控えている。ロッカールームでは様々な言語が飛び交うフィリピン代表だが、ひとつにまとまることができれば更に上位も狙えるはずだ。

ライオン・シティ・セイラーズなどクラブレベルで急速に注目度を上げているシンガポールは今年4月、かつて水戸ホーリーホックやSC相模原の指揮官を歴任してきた西ケ谷隆之氏を招聘。前任の吉田達磨氏(前ヴァンフォーレ甲府監督)に続くジャパニーズスタイルの継承となった。加えてタイのパトゥム・ユナイテッドで活躍中の長兄イルファンと次兄イクサン、さらに先日アルビレックス新潟シンガポールからベルギーのKMSKデインズへの移籍を果たした三男のイルハンのファンディ兄弟には要注目。残念ながらイクサンは直前の親善試合でヒザを負傷したために参加は不透明だが、同国の英雄として知られるファンディ・アフマドの遺伝子を受け継ぐ彼らが躍動すれば、5度目のタイトルも見えてくるだろう。

ラ・マシア出身のサンドロ・レイエス。2022年のAFF U23チャンピオンシップでもフィリピン代表チームの主力として参加、ゴールも記録している。
シンガポール代表が誇るファンディ3兄弟。左から三男イルハン、長兄イルファン、そして次兄イクサン。余談だが、彼らには幼い弟イリアンと、現在アーティスト活動をしている妹イマンがいる。

前回準優勝のインドネシアも侮れない存在。何よりもホーム&アウェイの試合形式が復活したことで、世界有数とも言える熱狂的なファンを背に戦えるのは彼らにとっては追い風だ。前回大会で最優秀選手賞に輝いた左SBのプラタマ・アルハン(東京ヴェルディ所属)、準決勝と決勝で得点を奪いチームの準優勝に貢献したMFエギ・マウラナ・フィクリ(スロべキア1部 FKセニツァ所属 ※2022年末に退団予定)だけでなく、WB兼MFのアスナウィ・マンクアラム(韓国2部 安山グリナースFC所属)など2021年のSEA Games銅メダルメンバーを中心に、海外で活躍する20代前半の若い選手も多く台頭してきていることも大きい。

そんな中で、大会制覇に最も近いと言えるのがベトナムだ。就任当初の2017年、その経歴から手腕を疑問視されていた韓国人指揮官パク・ハンソ氏だったが、次第に“フース・ヒディングの右腕”としての指導力を発揮。2019年アジアカップでは同国を初の決勝トーナメントへ、またカタールW杯では史上初の最終予選へと導いており、いずれの大会でも日本代表を大いに苦しめたことは記憶に新しいのではないだろうか。フランス2部でプレー中のMFグエン・クアン・ハイや、2度目のJ挑戦を狙うFWグエン・コン・フオンを欠くものの(※筆者注:ベトナムサッカー情報に詳しい『ベトナムフットボールダイジェスト+』を運営されているVN_FOOTBALL様より、一転グエン・クアン・ハイが所属のポーFCから代表参加が許可されたとのご指摘をいただきました。ありがとうございます。)、大会直前のフィリピンとのテストマッチでは大いに手応えをつかんだ様子。大会終了後に退任が決まっているパク監督、3度目の優勝という最高の結果で自身の任期最後に花を添えたい。

2022年、自国開催となった第31回SEA Gamesのサッカー競技で、ベトナムU23代表はタイU23代表を破って連覇を達成。若い世代も着実に力をつけてきている。

そしてこれらの国々の視線の先には2026年のW杯がある。アメリカ、カナダ、メキシコの3ヶ国共催という形でおこなわれるこの大会では、カタール大会までの参加32ヶ国から48ヶ国に増加。アジアの出場枠も4.5(※0.5は大陸間プレーオフによるもの)から8と倍増することが決定されている。我らが日本代表にとってはヒリヒリするアジア予選が消えて味気ないものになることを意味する。だが同時に、資金や人材があっても肝心の運営面の拙さが原因で他地域に遅れをとっていた東南アジア諸国にとっては、これ以上ないチャンスが舞い込んできたことも意味しているのだ。各国が代表チーム強化のために目の色を変えてきてもおかしくはない。

フランスW杯出場によって日本サッカーが類を見ないほどのスピードで進歩し、いまや世界を驚かす存在になったように、東南アジア諸国の中からW杯出場を契機に強豪へと発展する国が生まれてもなんら不思議ではない。少なくとも彼らには、現在の日本以上にフットボールに対する情熱を持っている。可能性は充分だ。

AFF三菱電機カップは“未来のサッカー強国”の進化の過程を見る大会である。今大会では近い将来、同じアジアの代表として共にW杯のピッチに立っているであろう代表チームを発見できるはず。サッカー通を自認するファンならば見なければ損、である。

【AFF三菱電機カップ2022(AFF Mitsubishi Electric Cup 2022)】

公式ウェブサイト: https://www.affmitsubishielectriccup.com/2022/

公式YouTube: https://www.youtube.com/@AFFMitsubishiElectricCup

投稿者プロフィール

KATSUDON
KATSUDONLADS FOOTBALL編集長
音楽好きでサッカー好き。国内はJ1から地域リーグ、海外はセリエAにブンデスリーガと、プロアマ問わず熱狂があれば、あらゆる試合が楽しめるお気楽人間。ピッチ上のプレーはもちろん、ゴール裏の様子もかなり気になるオタク気質。好きな選手はネドヴェド。
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