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【生みの親はスパーズ??】大ブレイク間近!あなたの知らない『フットゴルフ』の世界!!

皆さんは『フットゴルフ』(Footgolf)をご存知だろうか。その名の通り、フットボールとゴルフをかけ合わせた新たなスポーツである。残念ながら日本ではいまだにマイナースポーツの域を出てはいないが、競技として成立して15年も経たないうちに全世界40カ国以上、推定で約50万人(※日本国内の競技人口は約2万人と言われている)がプレーしており、なおもファン拡大中という現在人気急上昇の競技なのだ。これからブレイク必至のフットゴルフ、知っておいて損はナシ。五輪競技に採用されたあかつきには、周囲にドヤ顔で語れる…かもしれない??

初めて知った方のために簡単に説明すると、フットゴルフとは“サッカーボールを使ったゴルフ”である。クラブがわりに足で蹴ってボールを飛ばすこと、プロサッカーの試合で扱う5号球を使用すること、そしてそのボールをカップインできるようにグリーン上のカップは50cmの大きめな穴になっていること…それ以外は、いかに少ない打数で全18ホール(または9ホール)を回ることができるかという通常のゴルフ競技と同じ。“パー”や“バーディー”といった用語、「コース上を走ってはいけない」や「騒がしくしない」のようなマナーなどはゴルフからそのまま使われている。

ただし似ているとはいえ、初心者はもちろん老若男女にとっては、より気軽に競技に参加できる敷居の低さはゴルフとの大きな違いだ。もちろんドレスコードのためのウェアなどは必要になるが、5万円とも10万円とも言われるゴルフクラブ購入のような初期投資費用も必要ない。プレー料金自体もだいたい5,000円程度と、ゴルフのほぼ半額と比較的安価で楽しめるのだ。

ゴルフ人気回復のために考案されたスポーツだけに、ドレスコードもゴルフに寄ったものになっているフットゴルフ。襟付きのゴルフシャツにゴルフ用のショートパンツ。さらにソックスはアーガイル柄が推奨されている。なおシューズはサッカー由来だが、通常のスパイク付きは芝生を痛めるために禁止。履くのは屋内用のものに限られる。

だが、誰もが参加しやすいと言って、すぐに上級者になれるほどフットゴルフが簡単に攻略できるスポーツということではない。それは、かつてリーズ・ユナイテッドやマンチェスター・ユナイテッドで活躍し、スリーライオンズのシャツに袖を通したこともあるアラン・スミスの言葉からも窺い知れる。「“元プロ選手なら簡単なはず”と思う人もいるだろうね。だが、それはとてもとても違っていて、とてもとても難しいものなんだよ。」

アメリカの地方局『FOX35 Orlando』の取材に応えている彼は、現在アメリカでサッカーコーチを務めているかたわらフットゴルファーとして大会に参加中。第4回W杯にはセレブリティプレイヤーとしてイングランド代表フットゴルフチームにも帯同しており、両競技を知る貴重な経験者と言える。そんな彼でも、フットボーラー特有の難しさを次のように語っているのだ。「そもそもプロサッカーではボールが止まることを決して望まない。一方でフットゴルフではボールを止めなければならない。こうしたスキルひとつ身につけるのも、特にしっかり構成されて美しく作られたゴルフコースでは、多くのトラブルが起きるんだ。」

また、スコットランド・フットゴルフ協会の会長で、自身も代表キャプテンとしてプレーしたニール・シェイブも、「コースにはハザードや起伏があるので、ボールをどう打つか、どれだけ体重をかけるべきか、集中しなければなりません。ピッチ上とは違い、少しパスをミスしても、追いかけることで結果良いパスに変えてくれる相手なんていませんからね。」と、冗談を交えてこう話す。

ボールを遠くに飛ばすためのキック力、スピンのかけ具合などのテクニックなど、フットボール経験者に有利な部分だけではない。コースや自然環境の変化を読む力、さらには特性を理解した上でのボール選びはさらに好成績を得るためには必須条件となる。一筋縄ではいかない奥深さがあるからこそ、競技の魅力は上がるというもの。ビギナーにはレジャー感覚で参加できるほどに敷居が低く、上級者になればなるほど競技の奥深さを楽しむことができる。これこそがフットゴルフの魅力なのである。

今回のワールドカップ、シニアの部門で優勝を果たしたのは、ロベルト・アジャラ(※前列、左から2番目)率いるアルゼンチン代表。11人制のフットボールの世界で名をあげた名CBは、フットゴルフの世界においてもビッグネームだ。
2010年の南アフリカW杯の大会公式球、アディダス製の『ジャブラニ』。いわゆる“ブレ球”が蹴れることで知られるが、変にスピンがかからず飛距離が出るとしてフットゴルファーに人気のボールでもある。なお、他にも2011年のJリーグ公式球でジャブラニの改良版『スーパーセル』、2006年ドイツW杯公式球『チームガイスト』が好まれているようだ。

2009年に統一ルールが作成されスポーツ競技として整備されたばかりのフットゴルフは、2014年にサッカーにおけるFIFAにあたる国際フットゴルフ連盟(FIFG)が設立。当初FIFGに加盟する国と地域の数は10程度であったが、わずか10年も経たないうちに36にまで拡大した。欧米を中心に普及が進んだ結果、現在プレー可能なゴルフコースも“先進国”アメリカで600、イギリスでは200を超え、日本でも30ヶ所(※2023年6月現在)でフットゴルフを楽しむことができるという。もちろん全世界の競技人口が2億6千万人のサッカー、6千万人と言われるゴルフとはまだまだ比べようもないが、発展のスピードが“スポーツ界史上最速”と呼ばれるのも納得の速さである。

2023年には早くも4回目のワールドカップがアメリカのフロリダ州オーランドで開催され、過去最大となる世界39カ国・971名の選手たちが集まった。同大会では日本も男子団体がベスト8、シニア(※46歳以上)がベスト16入り。さらに特筆すべきは女子チームで、こちらは個人で4選手がトップ10入り、16チームが参加した団体にいたっては初代世界女王に輝くというとんでもない偉業まで成し遂げているのである。W杯以外にも国内外で多くのツアー大会がおこなわれており、2028年開催予定のロサンゼルス・オリンピックでの正式種目入りを目指すほど競技自体の盛り上がりは高まる一方。当初はゴルフ業界にフットボールファンを取り込むための方策に過ぎなかったフットゴルフは前述の理由もあってか、いまや世界中のスポーツ界において確固たる地位と人気を築きつつあるのだ。

フロリダ州オーランドで開催された第4回フットゴルフW杯では決勝でスロバキアを破り、女子団体で初代チャンピオンに輝いた日本代表チーム。(※画像: ゴルフダイジェスト・オンライン)
フットゴルフ日本代表のエースの1人である小林隼人選手が主催する、Jリーグチームのサポーターによるフットゴルフ対抗戦『ジェイサポカップ』。2023年2月には第5回大会がおこなわれ、Jリーグサポーター同士の交流はもちろん、フットゴルフの普及にも大きく貢献している。なおこの大会ではゴルフ場に特別な許可を得て、参加者がそれぞれ応援しているチームのユニフォームを着用してプレーしている。(※小林選手によるジェイサポについて書かれた記事はコチラ。)

これだけゴルフの影響が強いフットゴルフだが、こと誕生のきっかけに関してはフットボールが由来であること、しかもトッテナム・ホットスパーと1人のカルトヒーローの存在なしでは語れない。

「当時、広告代理店だった我々は、単に広告だけを扱うのではなく幅広い活動をしたいと思っていて、新しい製品やサービスを考案しようとしていたんだ。フットゴルフは我々が考えていた3つのアイデアのうちの1つだったんだよ。」英国紙『The SUN』の取材に答えたのは、FIFGの理事長も務めたミハエル・ヤンセンだ。彼はビジネスパートナーのバス・コルステンとともに競技の統一ルールを作成、小野伸二のフェイエノールト時代の同僚としても知られるピエール・ファン・ホーイドンクら元プロ選手を集めた世界初のフットゴルフ大会を開催した、フットゴルフの発案者であり発起人でもある。そして、ヤンセンとコルステンの2人に新スポーツのインスピレーションを与えたのがバスの弟であり、かつてプレミアリーグでのプレー経験を持つヴィレム・コルステンであった。

ヴィレム・コルステンは90年代後半から2000年代前半という非常に短い期間に活躍した、オランダ人の左ウィングであった。いや、活躍という言葉は少し異なるだろう。というのも、NECでキャリアをスタートした彼は度重なる股関節の怪我の影響により、その後のフィテッセやローンで移ったリーズ・ユナイテッドでも満足にシーズンを通して試合に出ることができなかったからである。それでも稼働率の悪さも目を瞑りたくなるほどに、彼にはプレミア屈指のワイドアタッカーになりえるだけのズバ抜けた才能があった。その証拠にリーズからノース・ロンドンへと移る際には、ダヴィド・ジノラの後釜として150万ポンドという高値が付けられていたのだ。しかし、それまでキャリアの大半を奪ってきたケガからは最後まで逃れることはできず、スパーズで過ごした2シーズンで出場できたのはわずか23試合のみ。非凡な才能の片鱗を見せたのは数えるほどであった。そのひとつ、ホワイト・ハート・レーンでのマンチェスター・ユナイテッド戦で2ゴールを奪ったことは古くからのファンの間で語り草になっているが、残念ながらその試合の数ヶ月後に彼はスパイクを置く決断をしている。

「ヴィレムはスパーズ時代の話をしてくれてね。トレーニング後に“練習場から更衣室のドアまで、どれだけ少ないキック数でボールを届かせることができるか”みたいなゲームで、チームメイトたちと遊んでいたらしいんだ。それは興味深いと思ってね。ゴルフによく似ているけどフットボールの要素も含まれてるし、その2つのアイデアを組み合わせて、気づけばフットゴルフが誕生したというわけさ。」

「ケガさえなければ…」という選手の代表格ともいえるオランダ人ウィンガー、ヴィレム・コルステン。オランダU-21代表として7試合に出場した彼には大きな期待がかけられていた。(※画像: Jon Buckle/EMPICS/Getty Images)
2000-01シーズン終盤におこなわれたマンチェスター・ユナイテッド戦で2ゴールをあげて勝利に貢献したヴィレム・コルステン。彼は現在は取り壊されたホワイト・ハート・レーンで、ユナイテッドから2得点をあげた最後のスパーズの選手である。

確かにフットゴルフに良く似たアイデアは過去、世界中に存在していた。例えばドイツではサッカーボールを蹴ってカップではなく旗竿に当てる『ブシュボール(Buschball)』が、またアメリカでは15cmほどのゴムボールを使った『コードボール(Codeball)』がレクリエーションやアマチュア競技として親しまれていたことはあったが、フットゴルフのようにプロスポーツとなったものは存在していなかったのだ。知る人ぞ知るカルトヒーローのケガに苦しんでいた頃の思い出が、まさか新スポーツの誕生に多大な貢献を果たすとは。まったくもって何が役に立つのかわからないものである。

フットゴルフの普及が広がるにつれ、本格的に競技に参戦する元プロサッカー選手が増えてきている。今回のW杯では日本の対戦相手として、シニア部門で母国アルゼンチンの優勝に貢献したロベルト・アジャラや、アトレティコ・マドリードなどで活躍した元フランス代表のフロラン・シナマ=ポンゴル、さらにはNFLのマイアミ・ドルフィンズなどでプレースキッカーを務めていたオリンド・メアといった著名人も数多く出場している。

一方の我が日本代表にも、鹿島アントラーズで中盤を務めていた阿部敏之や青木剛、浦和や大宮などでゴールマウスを守っていた加藤順大、日本代表と横浜フリューゲルスのエースとして活躍した前田治といったJ経験者たちが名を連ねており、特にプロフットゴルファーとして第2のプロ生活をおくっている青木選手は2022-23シーズンのジャパンツアーで4勝(※2023年7月末現在)、ポイントランキングも男子3位と競技歴の短さにもかかわらず日本のトップ選手として活躍中だ。

常勝軍団・鹿島で在籍15年間半、主にボランチとしてJリーグ3連覇にも貢献した“鉄人”青木剛選手。第2期岡田武史政権時には日本代表にも選出された彼は、2021年に一度はプロ生活に終止符をうった後、2022年から新たにプロフットゴルフ選手として現役復帰。現在は鹿島Ascendia所属の日本トッププロとして今後が期待されている。(※画像: TAKESHI AOKI オフィシャルサイト

このように、多くの魅力で世界中に広がり続けるフットゴルフだが、今後は多くの場所でコースを共有しているゴルフとの相互理解が重要となってくるだろう。

低迷するゴルフ人気回復の起爆剤として期待されたフットゴルフの誕生だったが、実際に人々をゴルフ場へ呼んだのは、皮肉にも新型コロナによるパンデミックであった。多くのスポーツイベントがウイルスの世界的流行により延期や中止になる中、世間から注目を集めたのが“マスクを付ける必要がない”スポーツ…選手同士の接触はもちろん、飛沫が飛ぶような会話もほとんどない。しかも屋外でプレーをする数少ない競技のひとつがゴルフだったからだ。その結果、多くの人々がゴルフクラブを手に取り、それによって閑古鳥が泣いていた多くのゴルフコースは本来の役割を取り戻した。反面、フットゴルファーにとってはコース不足により、プレー時間の確保が以前より非常に難しくなったのだ。

ベテランゴルファーからの反発も少なくない。彼らは、ゴルフ場のマナーが理解できない騒がしいフットボールファンがやって来ることに不安を感じている。フットゴルフ発起人のヤンセンは「フットボールの観衆がゴルフ場に入ってきた時、何人かのゴルファーの顔が“なぜここにいるんだ?”という表情だったのを覚えているよ。」と、競技立ち上げ当初の苦労をこう振り返る。

「確かに、昔ながらのゴルファーの中には“ここは私たちのゴルフコースだから、他の人には来てほしくない”と言う人がいます。」オーストラリア代表キャプテンのスティーブ・センヤードは、こうした誤解はフットゴルフの更なる普及によって解決すると考えている。「重要なのは、フットゴルフを世の中に広めて、このスポーツが存在すること…つまりは競技会やリーグがあることを人々に理解してもらうことなのです。」その為にはフットゴルフ代表チームが躍進することが1番の早道であるとも、センヤードは指摘する。例えば男子バスケットボールチームがW杯で活躍を見せ、多くの日本国民の注目を集めたように。

史上最速の発展を見せるフットゴルフだが、その道のりはまだ長く険しい。それでも世界中の人々を夢中にさせるポテンシャルを秘めたスポーツであることは間違いない。

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KATSUDONLADS FOOTBALL編集長
音楽好きでサッカー好き。国内はJ1から地域リーグ、海外はセリエAにブンデスリーガと、プロアマ問わず熱狂があれば、あらゆる試合が楽しめるお気楽人間。ピッチ上のプレーはもちろん、ゴール裏の様子もかなり気になるオタク気質。好きな選手はネドヴェド。
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