文化・歴史

マスコット界ダントツ1位?最狂キャラがメキシコにいた!!

筋骨隆々のゴツい体型に鋭い眼光。ひと睨みするだけで、日本のゆるキャラなど泣いて逃げ出しそうなイカつい風態。メキシコの1部リーグ、リーガMX所属のクラブ・ティフアナ(Club Tijuana)のマスコットであるショロ・マヨール(Xolo Mayor)くんは、ひとクセもふたクセもあるメキシコサッカーの中でもとくに異彩を放つ、危険な街・ティフアナにピッタリなコワモテキャラなのだ。

アメリカとの国境に接し、一時は“トランプ・ウォール”で話題になった街、ティフアナ。この街のサッカークラブ、クラブ・ティフアナのエンブレムにも記されているメキシカン・ヘアレス・ドッグが彼、チームマスコットであるショロ・マヨールくんのモデルだ。メキシコ原産のこの犬種はショロイツクインツレ、通称“ショロ”と呼ばれ、クラブ・ティフアナの愛称“ショロス”の由来ともなっている。(※クラブ・ティフアナの正式名称は、クラブ・ティフアナ・ショロイツクインツレス・デ・カリエンテである)ショロはいわゆるアステカ犬としても知られており、古代アステカ時代での神話では冥界の神に仕え、生者を守り死者を導く聖なる存在とされている。そのためにメキシコを象徴する犬とされているが、現在は頭数がすっかり減ってしまい絶滅危惧種となっている。

無毛のアステカ犬、ショロ。非常に賢く番犬に向いている反面、紫外線に弱く屋内で飼育する必要がある。毛色は黒、グレー、赤の3種。

カメラを向けると、なぜか筋肉アピールのショロ・マヨールくん。コロナ禍でもマスク姿で元気いっぱい。

ショロ好きのホルヘが当初、自身が所有するケンネルクラブ用としてデザイナーに依頼したとされるエンブレム。周囲から「サッカークラブのよう」と言われて考え直した、と言われている。世にも珍しい犬のシンボルマークは、2016年に英紙デイリーメールが選ぶ「デザインに優れたクラブエンブレム」ベスト20に選ばれている。

なぜクラブの顔がショロなのか。その理由は、現在クラブの胸スポンサーでもあるメキシコ最大のスポーツカジノ会社“カリエンテ”のオーナーであり、ティフアナ市長でもあったクラブオーナー、ホルヘ・ハンクの愛犬・エルモソにある。数少ないショロの中で100分の1の確率でしか生まれないというこの赤毛の犬は、生まれもっての美しさ、賢さ、優雅さのおかげで世界中の品評会で28もの賞を獲得。ショロ好きであったホルヘはとくにこの赤毛のエルモソを溺愛していたという。残念ながらエルモソはわずか8歳で亡くなってしまうが、ホルヘは愛犬の肖像を永遠に残し続けたいと考え、念願だったサッカークラブ設立のおりにはクラブエンブレムの中央に据えている。犬好きもここまでくるとあっぱれ、である。

ホームスタジアム、エスタディオ・カリエンテ内の礼拝堂には愛犬エルモソが人知れずまつられている。ちなみにホルヘに最初にショロを与えたのは、あのメキシコの大画家であるフリーダ・カーロの夫であるディエゴ・リベラと言われている。

さて、そのショロ・マヨールくん。見た目で言えば世界のマスコットの中でも圧倒的に怖そうなキャラだが、モデルのショロの正確に由来してか実は意外と明るく親しみやすい性格。他のマスコットと異なり着ぐるみ感(失礼)があまりないおかげで、試合前後のファンサービスはもちろんのこと、施設の慰問活動や警察署の体験レポートなどなど様々なことにチャレンジしていることが多い。重要なチームのPR活動を一手に引き受ける、いわばクラブの顔なのだ。おかげでコワモテにもかかわらず、子供達からの人気も上々だ。

会見中、後ろに控える姿はまるで用心棒のよう。
様々なイベントにクラブの代表として登場するショロ・マヨールくんは子供達にも大人気。
メキシコのお盆“死者の日”の準備を手伝うショロくん。動画ではエルモソの写真も。
死者の日に向けての、映画『リメンバー・ミー』のパロディ動画??
なぜか警察署での1日体験入隊にチャレンジするショロくん。やはり座学より体を使ったトレーニングの方が向いてる??
ショロくんによる、エステディオ・カリエンテのスタジアムツアー。

毎年発表の『世界で最も危険な都市ランキング』の常連であるメキシコの中でも、ティフアナは非常に危険な地域として知られており、人口10万人あたりの殺人発生率100.77(2017年集計)は世界ワースト5位の数字。アメリカのシリコンバレーにも近くメキシコの安い賃金も手伝い、IT関連企業の工場が数多く進出し急成長を遂げている場所である一方で、ドラッグと犯罪がはびこる風俗のメッカとしても有名な混沌の街だ。強盗、殺人、人身売買(※国から唯一売春が認められている地域でもある)は当たり前で、地元民ですら尻込みするような場所が街の至るところに存在している。なお日本の外務省はティフアナ市を、4段階の危険情報のうちレベル3の“渡航禁止勧告”対象地域に指定している。(※2021年8月29日現在)

昼と夜では表情が一変する街、ティフアナ。アメリカ側からの入国に特別な手続きがないため、サンディエゴなどから数多くのアメリカ人が訪れる。物価が安く、性風俗が全般許可されていることに加え、メキシコでは飲酒が16歳からとなっており、週末になると若者たちの渡航が絶えない。

もともとティフアナは貧富の差が激しい地域であり、近年は弱体化しているとはいえ麻薬カルテル『ティフアナ・カルテル』のお膝元でもある“麻薬戦争の最前線”とも言える場所。メキシコ社会全体がそうであるように、クラブ・ティフアナもまた、こうした組織と密接に結びついていた時期もあった。2011年にはクラブのオーナーであるホルヘが、自宅に88丁の銃と9,000発の弾丸所持していたことが発覚し逮捕。さらにカルテルの麻薬取引にも関わっているという疑いで、アメリカの麻薬取締局とFBIから訴追されている。また2012年にはクラブのBチームに所属していた選手が、大量の覚せい剤を運び出そうとしたとして、国境付近で逮捕されるという事件もあった。

もちろんファンサービスもショロくんのお仕事。ちなみに背番号の“333”はオーナー一族のラッキーナンバーから由来している。
映画館における『STOP映画泥棒』よろしく、ショロくんがスタジアムの禁止事項を楽しく教える動画。

ダーティーなイメージが強いティフアナにとって、ショロスは街の希望だ。オーナー一族のハンク家の持つビジネスネットワークを大いに利用して、クラブ・ティフアナはメキシコ国内のみならず国境の向こう側…全米に優秀なスカウト網を構築している。それによりビッグクラブが見落としていた若い才能を数多くクラブに集めることができるのだ。この自慢のシステムは2012年、クラブのリーグ初優勝という形で結実した。さらに若いスターたちが集まるこのチームに、国境の北側にいるアメリカ人ファンも数多く獲得することに成功したのだ。

怖そうだけど若く、たくましく、楽しく、そしてクリーンなイメージ。クラブ・ティフアナのマスコットであり、クラブの顔であるショロ・マヨールくんの姿は、ティフアナの人々が「こうありたい」、「こうあってほしい」と望む街の姿そのものなのかもしれない。

投稿者プロフィール

KATSUDON
KATSUDONLADS FOOTBALL編集長
音楽好きでサッカー好き。国内はJ1から地域リーグ、海外はセリエAにブンデスリーガと、プロアマ問わず熱狂があれば、あらゆる試合が楽しめるお気楽人間。ピッチ上のプレーはもちろん、ゴール裏の様子もかなり気になるオタク気質。好きな選手はネドヴェド。
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