アルビレックス新潟シンガポールのリーグ連覇を置き土産に、2023年シーズンをもって現役を引退した元・日本代表の李忠成(り・ただなり)氏が、このたび新たな育成プロジェクトを始動させた。ストライカーに特化したスクール、その名もズバリ『点取り屋-TENTORIYA-』。国内ではありとあらゆるタイトルに輝いただけでなく、決勝の劇的ボレー弾で日本代表をアジアカップ優勝に導き、サウサンプトンFCでプレミアリーグを戦ったという貴重な経験値を持つ李氏が、「僕にしかできない」と語るこのチャレンジ。いまスタートさせた理由や想いなどを、直接ご本人に伺ってみた。
-なぜストライカーに特化したプロジェクトなんでしょうか
李忠成(※以下、“李”)「サッカーのポジションの中でFWというのは独特、特有。例えばシュートひとつをとっても、ストライカーたるものの“仕方”ってものがあるんですよ。そういったものを子供たちに教えるというよりも、何かきっかけになってほしいな、と。僕は38年間ずっとストライカーでやってきましたし自信があるところなので、自分が1番言語化して教えられるんじゃないかと思って。もしかしたら大谷翔平さんや井上尚弥さん、松山英樹さんのように世界で活躍する、そんな日本のストライカーが世界一になる日がくるような。その1ページ目の、きっかけを作りたかったですね、僕は。」
-ストライカーというと感性とか嗅覚など、曖昧な言葉で片付けられがちな印象です
李 「ヘディングシュートひとつ取っても、じゃあ両足で飛ぶのか片足で飛ぶのか。空中に浮いてる時の足はどうすればいいの、手の動きはどう上手く使えばいいのとか。そこまで教えてる人ってなかなかいないんですよね。シュートも膝の振りの速さとか。強いシュートの撃ち方だったりとか。ストライカーにおけるシュートって、子供の頃に引き出しがあるかないかで確度が全く変わってくると思います。僕の場合はとびきり背が高いわけでもなくて、足が速いわけでもなくて、体が強いわけではない。これといって特徴がなく、それですごく苦しんだところがあって、それで生き抜くためにどうすればいいのかって時に、『考えること』が1番大事だって気付いたんです。」

-考えたからプロとして生き残れた、というのは以前に伺ったインタビューでも仰ってましたね
李 「例えば、自分より足の速い選手に勝って、自分の強みである左足のシュートまでどのように持っていけばいいのかとか、どうやってパスをもらえればいいか、そのためにどう動けばいいか。そんなことを常に考えていました。サッカーがヘタクソだったので、僕は誰よりも考えたからこそ日本代表になれたし、プレミアリーグまでいけた。技術だけじゃなく、常に考えること。ひとつの物事に対して10、100考えること。サッカーでは、そのトライ&エラーを繰り返していました。」

-最近ではプライベートコーチやストライカー育成スクールが続々と誕生し、一方でネットをひらけばスキルを解説した動画が山ほど出てくる時代ですが
李 「本物の物差しを持って欲しいんです。生で本当のシュートを見て、速さを見て、強さと音を聞いて。“これがプロサッカー選手なんだ”という物差しを持って欲しいんですよ。日本代表になってプレミアリーグにも行ったことで“世界”という物差しを持っている。これが僕の1番の強みだと思っています。小学校5年生の頃に大会があって、合間にサッカー教室があったんですね。そのサッカー教室を受けて、なんかすっごい大きいおじさんが凄いシュートとテクニック見せるなぁって感じで感動したんです。のちのち聞くと釜本さん(邦茂 氏 ※日本代表歴代最多得点記録保持者であり、得点王に輝いた1968年メキシコ五輪では日本を銅メダルに導いた)でした。名前とかわからなくても、あとあと聞くと凄い日本代表だった人に教わったんだというだけで、凄い印象に残っている自分がいたんです。もし自分にできるのであれば子供たちに…夢と希望を与えられる役割になれたらというのがきっかけですね。自分が全国をまわって何かワクワクするとかドキドキしたとか、サッカー楽しいんだとか、シュートこんなに速いんだとか、そういう感動を与えられたらいいなと思って。」

李 「まだ現役でもやれるほど動けるうちに(子供たちにプロ選手の物差しを示すことを)やりたい。僕が子供だったら、こういう人がいいなっていう。そういう人になろう、というのが僕を駆りたたせるものです。」
-新たに開催される『点取り屋SPECIAL』では全国6ヶ所で開催されるんですね
李 「この『点取り屋』はひとつのスクールのキャパが35人前後なので、僕がいっぺんに100人も200人もマンツーマンで教えることはできないのですが、色々吸収したいって思いがある子、見たいとか感じたいと思う子がいたら機会を掴んで欲しいなと思います。」
-今回は子供だけでなく大人も参加ができるということですが
李 「楽しいじゃないですか?もし自分と同世代で、あのアジアカップ(※2011年カタール大会決勝、vsオーストラリア)を観てたら、李とボレーシュート対決をやりたいと思いましたから。“李に勝った”、“伝説のボレーに勝った”と言いたいですから(笑)サッカーをプレーしたことがない女性でもいいんですよ。上手い下手なんか関係ない。今まで会えなかったけど、あのボレーを知ってるから遊びに行こうかとか、それでいいと思うんですよ。やっぱりサッカーって楽しいからフットサルやろうよ、サッカーやろうよ、観に行こうよっていうきっかけになればいいと思うんですよね。それでサッカーが広まればいいし、Jリーグや日本サッカー界全体の普及になればいいかと思ってます。それで“李にボレーで勝ったんだから、俺が教えてやろうか?”っていうのでも全然(笑)」
-最後に、今後についてお聞かせください
李 「将来的には僕から、違う選手へと引き継いでいきたいですね。ストライカースキルっていうものを教えられる教室などで普及していくように。あと、今年だけで12箇所くらいをまわるんですけど、そうすると2年半くらいかかると思うんですね、47都道府県全部行くには。それで1回まわってみた後で、次に来た時に何が起こるのか楽しみです。僕自身もそうだし、レッスンを受けた子供たちも、大人たちも。」

かつてバーンリーを指揮していたショーン・ダイシ(※現エバートン監督)が、プレミアリーグにストライカー専門のコーチがほとんどいない理由として「最高のストライカーの何人かと話したが、彼らは好調の時になぜゴールを奪えるのかを説明できないんだ」と語った。練習の反復の末に自分で上達のコツを見つけることは確かに重要だ。だが、誰しもが独力で解決方法を見つけ出せるわけではない。上達のコツがわからず、壁にぶち当たったまま先に進めず、競技の魅力を理解する前に早々と諦めてしまったダイヤの原石も数多くいたことだろう。
その点、李氏は自身を「サッカー選手のフィジカルでいったら10点中オール8点」と語るように、目立った特徴がないことでどうすれば突出した才能を持つ天才たちを出しぬき、ゴールを奪うかを試行錯誤してきた。だからこそ、単なるひらめきではなく積み重ねてきた確かな理論が存在し、その経験を言語化することができるのだ。これだけのキャリアがあり、他者にノウハウを伝えることができるトッププレイヤーはそういない。そういう意味でも『点取り屋』プロジェクトは非常に貴重な体験ができる格好の機会といえよう。たとえ単なるきっかけだとしても、子供たちが得られるものは将来計り知れない宝物になるはずだ。もちろん、“元・子供”の大人たちにも。

『点取り屋 SPECIAL』全国6都市、広島・東京・京都・柏・浦和・横浜にて開催!!
・広島 2024/6/2(日) フットサルドームPIVOX広島(広島市南区)※申込期限 5/28(火)23:59
・東京 2024/6/30(日) MUFG PARK(西東京市)※申込期限 6/26(水)23:59
・京都 2024/7/20(土) ミズノスポーツプラザ京都伏見(京都市伏見区)※申込期限 7/17(水)23:59
・柏 2024/8/25(日) ※“子供の部”と“大人の部”で会場が異なりますのでご注意ください
【子供の部】レイソルグラウンド(柏市)※申込期間 6/1(土)〜8/21(水)23:59
【大人の部】トミー・フットサル松戸(鎌ケ谷市)※申込期間 6/1(土)〜8/21(水)23:59
・浦和 2024/9/28(土) UGAJIN ESFORCO PLACE(戸田市)※申込期間 6/1(土)〜9/25(水)23:59
・横浜 2024/10/19(土) ノア・フットサルステージ横浜(横浜市神奈川区)※申込期間 6/1(土)〜10/16(水)23:59
※開始時間や参加費・申し込み予約等のイベント詳細に関しましては『点取り屋-TENTORIYA-』
(https://tentoriya.jp/)のウェブサイト、または『点取り屋SPECIAL』特設ページをご確認ください。

李忠成(り・ただなり)
1985年12月19日生まれ、東京都出身。
高校卒業後の2004年、FC東京U-18からトップ昇格を果たしプロの世界へ。その後は柏レイソル、サンフレッチェ広島を経て、2012年にはイングランド・プレミアリーグのサウサンプトン(※当時2部)への移籍を果たした。怪我のため出場機会に恵まれなかったものの多くのゴールに絡む活躍を見せ、中でもダービー・カウンティ戦でのゴールは「セント・メリーズの衝撃」と呼ばれ、今も地元ファンの間では語り草となっている。国内に復帰した2014年以降は浦和レッズ、横浜F・マリノス、京都サンガと渡り歩き、数多くの国内タイトルを獲得。2022年シーズンからはシンガポール・プレミアリーグへ、アルビレックス新潟シンガポールの一員としてチームを2年ぶりのリーグ制覇に貢献した。また代表チームでも存在感を示しており、2008年は北京五輪代表、2011年からはA代表として活躍。特に日本をアジア王者に導いたアジアカップ・カタール大会決勝、延長での劇的ボレーシュートは数ある日本代表のゴールの中でもハイライトのひとつに数えられている。2023年シーズンをもって現役生活にピリオドを打ち、引退後は2024年アジアカップでの日本戦中継のスタジオ解説や、様々なプロジェクトを立ち上げるなど精力的に活動を続けている。
●『点取り屋-TENTORIYA-』オフィシャルサイト https://tentoriya.jp/
●『点取り屋SPECIAL』特設ページ https://tentoriya.jp/special2024
●X(旧Twitter) @Tadanari_Lee
●Instagram @tadanarilee_official ●YouTubeチャンネル 李忠成/Tadanari Lee
※こちらの記事も
元日本代表、李忠成の現在「“シンガポールのジーコ”になる」(前編)
元日本代表、李忠成の現在「名前を変えても、生き方は変えられない」(後編)
投稿者プロフィール

- LADS FOOTBALL編集長
- 音楽好きでサッカー好き。国内はJ1から地域リーグ、海外はセリエAにブンデスリーガと、プロアマ問わず熱狂があれば、あらゆる試合が楽しめるお気楽人間。ピッチ上のプレーはもちろん、ゴール裏の様子もかなり気になるオタク気質。好きな選手はネドヴェド。
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