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さえぎる物は壁1枚??ふりかえればヤツがいる、ウルグアイの“世界No.1激近ダービー”!!

皆さんはライバル同士の本拠地が接近している、いわゆる“ご近所ダービー”をどれだけご存知だろうか。海外フットボールメディアでも時折とりあげられるこの話題。意外なことにサン・シーロ(ミラノ)やスタディオ・オリンピコ(ローマ)等、ひとつのスタジアムを共有している場合を除いたとしても、世界中には近距離のダービーが数多く存在している。しかもその上位10組はいずれも、互いのスタジアムの間がわずか1km以内という至近距離に存在するというのだ。今回はその中から、世界で最も近いと言われるダービーをご紹介する。

ご近所と聞いてスタジアムが並んでいる光景を真っ先に思い浮かべるのは、おそらくリヴァプールとエバートンの『マージーサイド・ダービー』ではないだろうか。中継前に流れる2つのスタジアムの空撮映像、赤と青のユニフォーム姿のサポーターが並んで観戦している様子など、プレミアリーグだけでなく世界で最も有名なご近所ダービーといえる対戦だろう。実際のところ両クラブのホーム、アンフィールド〜グディソン・パークの距離は1.1kmとかなり接近している。が、世界の中では序の口といったところだろう。

セルビアを代表する大人気クラブ、レッドスター(ツルヴェナ・ズヴェズダ)とパルチザンとのナショナルダービー『ヴェチティ・デルビ』の舞台もご近所同士だ。試合のたびに互いのウルトラス(または味方同士)による暴力事件や暴動、殺人事件にまで発展する“欧州で最も危険なダービー”。だがスタディオン・ライコ・ミティッチ(※通称“マラカナ”)とスタディオン・パルチザナとの間は750mほどと、近距離ランキングの上位に食い込むにはまだまだ距離がある。また、危険という点でベオグラードに負けていないのが、アルゼンチンのビッグ5であるラシン・クラブとインデペンディエンテの対戦。こちらもサポーター同士の衝突によって試合続行が不可能になることもある激しいダービーとして知られている。このブエノスアイレス郊外、アベジャネーダの2クラブのスタジアムの距離は直線距離にして370m。過激さだけでなく、ご近所という点においても上位に位置する注目の一戦だ。

スタンドが真っ赤に染まる“世界最恐”ダービーのひとつ、ベオグラードのヴェチティ・デルビ。民族や政治、宗教や階級など、スタジアムに持ち込まれる現実社会の問題や対立が、ダービーを盛りあげる大きな“燃料”となる。
様々なドラマを生んできた、インデとラシンのクラシコ・デ・アベジャネーダ。かつてはラシン所属のディエゴ(元インテル・ミラノ等)とインデ所属のガブリエル(元バルセロナ等)のミリート兄弟の対決がおこなわれたことがあり、試合後ずっとTVカメラの前で続けられた口喧嘩は有名なエピソードだ。

一方、同じ通り沿いにあるライバル、スコットランドのダンディーFCとダンディー・ユナイテッドとのダービーは様子が異なる。この手のランキングでは最もメジャーなものでありながら、前述のものとは違い非常に友好的な対戦として知られている。何よりこのダービーの印象的な所はアウェイ側が敵地のロッカールームを使わず、300m離れた自分たちのスタジアムから歩いてやってくることだろう。このダービーマッチ特有の光景は、両スタジアムが際立って近距離であることを示す象徴的なものと言える。もっとも、現在は2クラブが共有予定の新スタジアム建設が検討されており、近い将来にこうした伝統が消えてしまうかもしれない。

“ダンディー・ダービーならでは、というワンシーン。2012年、デンズ・パークでおこなわれた試合では、ダンディー・ユナイテッドの選手はアウェイ側のロッカーを使わず、自分たちのスタジアムから徒歩で登場した。2022年2月の対戦ではアウェイチームであるユナイテッドが街中心部にあるホテルを利用したことで両者の伝統は潰えたが、ダンディーFCは2ヶ月後の対戦で再び敵地まで徒歩で向かっている。

2009年、彗星の如く近距離ランキング上位に登場したのはスウェーデンのマルメだ。あのズラタン・イブラヒモヴィッチの古巣として知られるマルメFFのエレダ・スタディオンの駐車場に、古豪IFKマルメのマルメ・スタディオンが隣接する姿は、もはや同じ敷地内にあると言っても差し支えないほど。元々FFが“旧スタジアム”の隣に現スタジアムを建設、移転したあとにマルメ・スタディオンの以前の持ち主であったIFKが“元サヤ”したことで実現した、直線距離270mの超ご近所ダービー。ただしリーグ戦において2チームによるダービーは1986年を最後におこなわれておらず、近年は両クラブのカテゴリーが長らく離れていたこともあって、ライバル関係は事実上消滅状態にある。

マルメを代表する新旧スタジアム、エルダ・スタディオン(上奥)と、マルメ・スタディオン(手前)。かつてはEUROやW杯の舞台となったマルメ・スタディオンに対し、マルメFFの新ホームは便宜上『マルメ・ニュー・スタジアム』とも呼ばれている。

前置きが長くなってしまったが、そろそろ世界No.1ご近所ダービーをご紹介しよう。その舞台はウルグアイの首都、モンテビデオにある。同国のナショナルスタジアムであり、記念すべき1930年の第1回ワールドカップ決勝の地でもある“聖地”、エスタディオ・センテナリオという一際目立つ場所からわずか260m。ひっそりと存在する戦いは、ウルグアイ最大のダービーであるペニャロールとナシオナルの『スーペルクラシコ』と並ぶ由緒正しい一戦なのである。

ウルグアイ2部所属のセントラル・エスパニョールFCとスポルティボ・ミラマール・ミシオネスのホーム、パルケ・パレルモとパルケ・ルイス・メンデス・ピアナの距離は…なんとなんと、ほぼゼロ。互いのセンターサークルを直線で結んだとしても100mちょっとしかない。そして両者の間を隔てるものは1枚の壁、それだけ。それ故にこのダービー、人呼んで『クラシコ・デル・ムロ』(CLÁSICO del MURO=壁のダービー)。正真正銘の激近、なのである。

モンテビデオのセントラルパーク、パルケ・オトジェ。複数の公園が集まった緑地地帯に、この世界一近いダービーの舞台が存在する。
セントラル・エスパニョールのパルケ・パレルモ(画面右)のスタンドから見る、ミラマール・ミシオネスのパルケ・ルイス・メンデス・ピアナ。遮蔽物がなく、振り向くだけで隣のグラウンドがバッチリ見渡せる。(※セントラル・エスパニョールHPより)

「このクラシコの素晴らしいところ?パルケ・パレルモのスタンドから、ミラマールの試合も観れるってことじゃないかな。1枚のチケットで2試合観れる。もちろん、あっちのグラウンドに背を向けて、ウチの試合を観て欲しいんだけどね(笑)あとはそうだね、クラシコがある時も遠征費用がかからないってことは良いことじゃないか?」

ポルトガルのフットボールメディア『MaisFutebol』に冗談を交えながら答えたのは、この地でサッカーを始めた“先輩”であるセントラルのフェルナンド・ラロック前会長(※2017年のインタビュー当時は会長)だ。彼はお隣、ミラマールとの関係性を以下のように語った。

「我々はセンテナリオのふもと(※道路の向かい側)にある、市内中心部の大きなスポーツパークという恵まれたエリアにいるだけでなく、良い“ご近所”を持っているんだよ。もし彼らの所のボイラーが故障してシャワーが使えなければ、ウチのシャワーを使いに来てもらってもいい。プレシーズンマッチの会場に困っているのなら、ピッチだって提供するよ。」

セントラル・エスパニョールのホーム、パルケ・パレルモの入口。セントラルはウルグアイサッカー史上、最も1部と2部との間で昇降格を繰り返してきた“スモールクラブ”だが、1984年に1度だけ1部優勝を果たしている。
CONMEBOL(南米サッカー連盟)コパ・リベルタドーレス2021が決勝の地、モンテビデオを紹介する動画として特集された『クラシコ・デル・ムロ』。セントラルの現会長やインチャ(サポーター)も登場している。

前会長の言葉は決して社交辞令ではない。事実、セントラルは過去にミラマールのため、自らの敷地の一角を彼らに提供したことがある。

「ミシオネスとミラマールという2つのクラブが合併するまで、彼らはプロリーグで活動していなくてね。当時、我々の隣には観覧席もない小さなグラウンドしかなかったんだよ。だから(ミラマールが隣に移転してきた際に)我々は彼らがスタンドを作れるよう、我々の土地の一部を譲ったんだ。」(※ラロックのインタビューより)

両グラウンドはたった壁1枚によって仕切られているが、両クラブとファンの間にはその壁すらない。世界で最も近いダービーは、最も平和なダービーでもあるのだ。セントラルのライバルであるミラマールのウーゴ・カサダ会長も、前述の『MaisFutebol』のインタビューでお隣との関係が良好であることを述べている。

「我々にとってセントラル・エスパニョールは隣人であり、何より長年の友人でもあるんだ。ここにはバーラ・ブラバ(※アルゼンチンなどで呼称される、過激なフーリガンたちのこと)のような暴力的なものはないんだ。もしボールがセントラルのスタジアムに飛んでいったとしまっても、彼らはちゃんと返してくれるしね。」

2017年のダービー直前に、ミシオネスの公式アカウントが投稿した煽り(?)ツイート。「『世界一近いクラシコ』が始まるぞ!もし俺たちのグラウンドにボールが落ちても、あいつらに返さないって言ってあるぜ!!」と、おそらく世界で最もかわいらしい煽り??
2017年のクラシコでは、所属クラブ数31というギネス記録を持つジャーニーマン、当時40歳のセバスティアン・“ロコ”・アブレウのゴラッソでセントラルが勝利している。

もちろんクラブの意地とプライドをかけたダービーマッチである。2017年のダービーでは退場者こそ出なかったものの、多くのイエローカードが飛び交う大熱戦となった。しかしそこはガラ・チャルーア(※不屈のウルグアイ魂、の意)のスタイルで戦った結果と語ったのは、勝ったセントラルのラロック前会長。「これはトップチームだけでなくユースでも、スポーツの面において健全なライバルなんだ。」と、両クラブの競争があくまで悪しき対抗心に基づいたものでないことを強調する。一方で、負けたミラマールのカサダ会長もまた「我々は時々、90分間だけはライバル同士。それ以外の時はずっと、我々は隣人であり友人だ。」と、セントラルとの友情が揺らぐことはない様子だ。

互いに安定した戦力を維持することができないクラブ同士だけに、昇格降格の関係からすれ違いもかなり多い。それでも彼らの壁を超えた繋がりは、決して断たれることはないだろう。

投稿者プロフィール

KATSUDON
KATSUDONLADS FOOTBALL編集長
音楽好きでサッカー好き。国内はJ1から地域リーグ、海外はセリエAにブンデスリーガと、プロアマ問わず熱狂があれば、あらゆる試合が楽しめるお気楽人間。ピッチ上のプレーはもちろん、ゴール裏の様子もかなり気になるオタク気質。好きな選手はネドヴェド。
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